天野剛志
旧優生保護法(1948~96年)で障害などを理由に不妊や中絶の手術を強いられた市民とその配偶者に各300万円を支給する兵庫県明石市の条例案について、市議会は29日、賛成少数で否決した。自治体による支援金支給は全国でも異例で、泉房穂市長は30日にも修正案を提出する考えを示した。
国の一時金支給法は、不妊手術を受けた本人を対象に一律320万円を支払う。市の条例案は、同法の対象外である中絶手術を受けた人や配偶者も含める内容。だが市議会本会議では「甚大な人権被害を受けた被害者を支援するべきだ」との意見がある一方、「本来は国の問題で裁判でも係争中。その中で、なぜ明石市民の税金を使うのか。対象人数も未確定で何人まで増えるのか不明だ」との意見も出た。採決では議長や棄権した6人らを除く21人のうち賛成は9人にとどまった。「反対ではないが、市民や第三者の声を聞く手順を踏んでおらず、市長が独断専行している」と棄権した議員もいた。
条例案は泉市長が「国の対応は不備があり、市としてできることをしたい」と市議会に提案していた。
議場には強制不妊手術を巡る国家賠償訴訟の原告で、同市内に住む聴覚障害者の小林宝二さん(89)と喜美子さん(89)夫妻の姿もあった。宝二さんは「まだまだ私たちのことを理解してもらえる段階ではないと思った。市長が再チャレンジすると言ってくれたので、私も分かって頂けるまで頑張りたい」と手話を使って語った。
各地の訴訟では、旧法は憲法違反と判断する一方、手術から20年の除斥期間が過ぎたとして賠償請求を退ける判決が相次ぐ。優生保護法被害兵庫弁護団の藤原精吾団長は「条例案は、国の一時金支給法の不十分さを示すだけでなく、期限を設けていない点で、国の責任を免除した判決の誤りも示すものだった。意味は大きかっただけに、否決は極めて残念だ」と話した。(天野剛志)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル